八卦掌は、19世紀、清朝末期に宦官の董海川(とうかいせん)によって創始されたと伝えられています。
まさに映画『ラストエンペラー』の時代ですね。
董海川は紫禁城、つまり皇帝の居城の護衛長官を勤めていたそうです。つまり八卦掌は、皇帝を護る拳、というわけですね。
まず眼を見張るのは、宗家の老師のものすごいおなか。いわゆる「下丹田」が異様に発達しており、その威容はまるで「歩く冷蔵庫」です(「方腰」と言われる)。
なんでも『老子』を原典とする八卦掌は、「走圏」という鍛錬法によって、「気」と「血」を全身に巡らせ、心身を胎児の状態にまで回帰させていくのだそうです。
そういえば赤ちゃんはぽっこりお腹ですなう。
「走圏(そうけん)」とは、道教の円を巡る修行を取り入れた八卦掌独自の鍛錬法で、独特の構えを取り、ひたすら円周を「歩く」というもの。
八卦掌そのものは、眼突き、金的、暗器の使用なども厭わない、危険極まりない武術なのですが、その稽古風景はひたすら「歩く」。
そのギャップもまた面白い。
しかしまた、その流麗な動作から「龍が遊ぶような」などと形容されるように、手法と歩法が非常に美しいため、女性で好んで学ぶ人も多いようです。
しかも、女性は男性と身体の構造が異なるため、鍛錬を続けても老師のようにお腹は大きくならないということです。
そんな都合のいい話があるなんて!